三波春夫と美空ひばり
大晦日のNHK紅白歌合戦の曲順が発表され、大トリを五木ひろし、トリを石川さゆりが勤めるという。ところで「トリを取る(最後に高座にあがる)」というのは、もともと落語、講談、義太夫、浪花節などの寄席でつかわれた言葉である。落語家には、前座・二ッ目・真打という三段階のランクがある。技量のすぐれた出演者が一日の最後の演目をしめくくる責任を持つことから、最後の出番を勤めることを「トリを取る」といい、その実力のある噺家を「真打ち」というようになった。しかし今日、ニュースなどでよく耳にするのは、紅白歌合戦の最後の出演者、つまり歌手の誰がその年の「トリを取る」かに関心が集まるようだ。
紅白歌合戦でのトリといえば美空ひばり(1937-1987)と三波春夫(1923-2001)の対戦が思い出される。まさに歌謡曲黄金時代の年の締めくくりに相応しい豪華なショーであった。
昭和38年「哀愁出船」「佐渡の恋歌」
昭和39年「柔」「俵星玄蕃」
昭和41年「悲しい酒」「紀伊国屋文左ェ門」
昭和42年「芸道一代」「赤垣源蔵」
過去4度の対戦があったが、昭和38年は81.4パーセントで最高視聴率を記録した。昭和41年の対戦は三波春夫が大トリを取り「豪商一代紀伊国屋文左衛門」(作詞・北村桃児、作曲・長津義司)を熱唱した。この歌は三波の持ち歌のなかでもとくに所要時間が長い歌謡浪曲である。
沖の暗いのに白帆がサー見ゆる
あれは紀の国ヤレコノコレワイノサ
みかん船じゃ エー
八重の汐路に 広がる歌が
海の男の 夢を呼ぶ
花のお江戸は もうすぐ近い
豪商一代 紀の国屋
百万両の 船が行く
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