モーパッサンと未知との遭遇
モーパッサン(1850-1893)は「脂肪の塊」「女の一生」「ベラミ」「ピエールとジャン」などの成功によって、金銭的にも恵まれ、社交界にも好んで出入りするようになった。しかし梅毒による進行麻痺で精神に異常をきたすようになった。1891年から発狂の兆候が見られ、1892年1月2日、ニースで自殺を図り、精神病院に入院する。翌年の7月6日、パリの病院で死亡。享年43歳。
モーパッサンは日本でも一番よく読まれている作家の一人であるが、その作品群は35歳頃に書いた「ベラミ」までで、それ以後に書かれた「モントリオル」「ムッシュ・バラン」「ル・オルラ」「死の如く強し」「左手」「あだ花」「男ごころ」「異郷の塊」(未完)「鐘」「ペール・ミロン」「行商人」など読まれることはあまりない。それは晩年に社交界での体験をもとにした上流階級を描いた作品が多く、彼の本領が発揮できなかったからであろう。
晩年のモーパッサンに関する奇妙な話がある。(「モーパッサンと空飛ぶ円盤」『西洋歴史奇譚』所収)モーパッサンがエトルタの自宅で仕事をしていた時のことである。召使いが書斎に入ってきて、来客があるという。男は痩せて眼鏡をかけていた。「すいません、先生、ご迷惑は重々承知しておりますが、先生以外に聞いていただける方はないと思って決心した次第です」「いや、お話を聞いてみなければわかりませんな」「先生は、地球以外の星にも生物が棲んでいるとお考えですか」モーパッサンは躊躇なく答えた。「もちろんですとも、棲んでいると思いますよ」「ああ、よかった。先生、ほっとしました。あれは流星ではありません。すきとおった光る球体で、まわりに蒸気のようなものが渦巻いていました。この眼ではっきり見たのです。あれは宇宙船にまちがいありません」男は興奮して、椅子から立ち上がった。「では、失礼します。先生、どうして黙っていらっしゃるのですか。いつかお気が向いたら、ぜひこの話をお書きになってください」と言って、男は帰っていった。
だがモーパッサンの著述のなかで、宇宙人や宇宙船、空飛ぶ円盤(正式には未確認飛行物体 UFO)に関する記事は発見されていない。モーパッサンはジュール・ヴェルヌ(1828-1905)より22歳も若く、同時代のフランスの作家である。彼の得意とするものは、貧しい小市民の生活を描くことにあり、SFには興味がなかったのであろうか。
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