フランコ将軍とヘミングウェイ
スペインは「ゲリラ」の本場という印象がある。それはアーネスト・ヘミングウェー(1899-1961)の長篇小説「誰がために鐘は鳴る」(1940)が広く読まれているからかも知れない。もともとゲリラとはナポレオンのスペイン征服当時、スペイン軍のしばしば用いた戦法で、「小さな戦争」を意味していた。その後、「ゲリラ」とは、遊撃戦を行う小部隊、不正規遊撃隊、あるいは人民戦線、パルチザンなどとほぼ同じ意味に用いられている。
スペイン内乱(1936-1936)は、マヌエル・アサーニャ(1880-1940)が率いる人民戦線内閣に対して、フランシスコ・フランコ(1892-1975)が大地主・教会・軍隊を背景に起こした内乱である。結果は1939年3月、マドリードが陥落し、フランコ独裁政権樹立を招いた。フランコはヒトラー、ムッソリーニなどのファシズム政権が崩壊した後も実に30年間にわたり、その独裁体制を維持し続けた。ファシズムと民主主義の戦いで、ファシズムが勝利した理由は、人民政府のバラバラな組織と武器の不足、イギリス・フランスの不干渉政策が考えられる。
ヘミングウェーとフランスの作家アンドレ・マルローはマドリードで会い、お互いにスペイン内戦を題材とした小説を書こうと約束した。マルローは1937年7月に「希望」を発表する。ヘミングウェイは、ようやく2年後の1939年3月に書きはじめ、18ヵ月かかって「誰がために鐘は鳴る」を完成させた。
義勇兵として政府軍に参加したアメリカ青年ロバート・ジョーダンは、軍部上層部のゴルツから友軍の全面攻撃開始と同時に鉄橋を爆破するという任務をうける。セゴビア郊外の町ラ・グランハ近くのグァダラーマ山中の洞窟を根城にするゲリラ部隊に合流する。リーダーのパブロは橋の爆破に反対する。しかし妻のピラールが橋の爆破に賛同してくれた。ロバートは、そのピラールを手伝う目がさめるほど美しい鳶色の肌をしたマリアという娘に出会う。「キスすると鼻がぶつかりはしないかしら」そんな他愛ないことを言うマリアをロバートは愛した。ロバートは計画どおりに鉄橋爆破を敢行する。ゲリラ隊は間道ぞいに逃走するが、敵の集中砲火は激しい。傍らに寄ってきたマリアの手を握って「俺にかまわず行け!」と叫ぶ。泣いて去るマリア。ロバートは、ただ一人、機関銃を握りしめ、来襲する敵兵を待ち受けながら落命する。
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