フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)の代表作といえば、南仏アルルで描いた「ひまわり」を、まず思い浮かべる人は多いだろう。よけいなものはすべて省略し、輝くような黄色を大胆に画面に広げて描いている。この独創的な「ひまわり」の連作は、彼がアルルで借りて通称「黄色い家」の部屋の装飾画として、一緒に暮らすことになったゴーガン(1848-1903)のために描きはじめたものだった。手紙のなかでゴッホは、ゴーガンを迎えるために「12枚のひまわりの絵で部屋を飾るつもり」であると、述べている。しかも「12本の花と蕾のあるもの」の予定であったらしい。おそらくこの「12」という数字は、キリストの12人の弟子たち、つまり十二使徒を表わしているのだ。しかし、連作を意図して実際に描かれた2枚目の「ひまわり」には、14本の花がえがかれている。新たに加わった2本のひまわりは、指導者として芸術共同体を導くべきゴーガンと画商テオと考えられている。12枚の「ひまわり」全作品リストは以下のとおり。
1.1886秋(F250)マンハイム市立美術館蔵
2.1887秋(F377)ゴッホ美術館蔵
3.1887秋(F376)ベルン美術館蔵
4.1887秋(F375)メトロポリタン美術館蔵
5.1887秋(F452)クレラー・ミュラー美術館蔵
6.1888年8月(F453)個人蔵
7.1888年8月(F459)芦屋、山本顧弥太氏旧蔵

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8.1888年8月(F454)ナショナル・ギャラリー蔵
9.1888年8月(F456)ノイエ・ピナコーク蔵
10.1889年1月(F455)フィラデルフィア美術館蔵
11.1889年1月(F456)ゴッホ美術館蔵
12.1889年1月(F457)東郷青児美術館蔵
今年10月に刊行された小林英樹著『ゴッホの復活』によると、7番と12番のひまわりは贋作であるという。つまり既に焼失した「芦屋のひまわり」と1987年に安田火災海上が約58億円で購入した「東京のひまわり」は贋作と断定している。その鑑定が正当であるかどうかは、本書を精読していただきたい。(とくに第8章、非ゴッホの造形的証明)
12枚のひまわりの作品の中で最も有名なのは、ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵(8番)のものであろう。この絵でゴッホは、最も好んだ黄色を強烈に背景に使っている。「芦屋のひまわり」は、「ロイヤル・ブルーの背景の向日葵」と手紙にあるものと推定されるが、サイズや花の数が一致しない点も謎である。小林英樹はレプリカタイプの贋作と指摘している。
「東京のひまわり」で小林はテーブル面に注目している。当時のゴッホの念頭には、徹底した平面処理を行うことによって広がりを生み出せるという信念があった。たしかに「ナショナルギャラリーのひまわり」をはじめ他の「ひまわり」のテーブルは平らに塗っているが、「東京のひまわり」だけは乱暴な厚塗りの水平方向のタッチである。平らなテーブルと花瓶、フォルムを構成するうえで重要な意味をもつものであり、「東京のひまわり」はゴッホのイメージからは遠い、という小林の指摘には納得させられる点がある。このほか造形の専門に関わった者でなければ、見えない問題点を本書では多数指摘している。
ファン・ゴッホの作品には昔から真贋論争は多い。ひろしま美術館が所蔵している「ドービニーの庭」も同じ構図の絵がバーゼル美術館にあり、むかしから真贋論争は続いている。
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