二等兵物語と詩人・梁取三義
「二等兵物語」というと伴淳三郎、花菱アチャコの軍隊喜劇映画を思い出すかもしれない。原作は梁取三義(やなとりみつよし、1912-1993)の長篇小説である。彩光社から昭和28年に第1巻「五里霧中の巻」が発売され、以降、「練兵休の巻」「南方要員の巻」「東京空襲の巻」「決戦体制の巻」、そして第6巻の「敗色歴然の巻」で第一期が完結したのは昭和30年であった。主人公の古山源吉二等兵は、東北出身であった俳優・伴淳三郎の当り役となる。梁取三義は本名・梁取光義。明治45年6月25日、南会津郡只見町に生まれた。戦前は歌謡曲の詩をつくっていたようで、小説の中にもずいぶんと詩がでてくる。若山牧水、石川啄木を愛した詩人であった。長篇小説「二等兵物語」の最後にある理想郷をうたった「詩に託す心」を紹介する。
蒼い空の下
質素な家
四面の果樹園には
紅白とりどりの花がひらき
小鳥の声は終日のどかに聞える
池には朝から鯉がたはむれ
軒端には蜜蜂が群れて飛び交ふ
妻も子供達も
みんな微笑む
そこには
神の恵みの稲が実り
大根が育つ
私の生きる望み
理想と現実を結ぶ
たった一つの鍵
そこでは
争闘も無価値
虚偽も不必要
真理を求め
美を讃え
子供達と共に
歌を唄って鍬をふるふ
桃の花は紅く
梨の花は白い
実りを夢見る花々の上を
蜜蜂の群れ飛ぶ羽音
ここでは
太陽の光りが
健康と愛情を
何のさまたげもなく育ててくれる
蒼い空のもと
質素な家
そこで私達は
花々と語る魔術を会得しよう
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