姚安
臨洮の姚安は美男だった。同郷に、緑娥という娘がいた。美しいし、それに賢かったが、相手を選んで、なかなか嫁にゆかない。
「門閥や風采が姚さんのようだったら、あたし結婚するわよ」といつも人にいうのだった。
姚はそれを聞くと妻をだまして、井戸をのぞかせ、後からつきおとして殺してしまった。そして緑蛾を娶った。
溺愛したが、緑娥があまりにも美しいので、安はたえず浮気をしているのではないかと疑っていた。女が外出すると後をつけた。女は気持ちを悪くして言った。「あたしがもし逢いびきしていたら、そんなにこせこせしたって、とめられないわ」
ある日、姚が外から帰ってきて、寝室をみると、貂の帽子をかぶった一人の男がベットの上で寝ていた。姚は怒って刀を取り、力まかせに斬りつけた。そして近づいてよく見ると、女が寒さのため、貂の皮を覆い、昼寝をしていたのだった。姚はひどく驚き悔やんだが、あとのまつりだった。
あるとき姚が独りで坐っていると、髯のはえた男となれなれしく話している女の姿が見えた。憎くてたまらなかったので、刀をもってそばに行くと、消えてしまった。元の場所に返ってきて坐るとまた見えるのである。姚はひどく怒って、刀を振り回して、あたりを斬りつけた。すると女が姚を見て笑うので、たちどころに首を斬った。やがてまた坐ると、女はもとのところで、もとのように笑っていた。
夜、灯(あかり)を消すと、言いようのない厭な声がする。毎日そんなで、それはとても耐えられないものだったので、姚は田畑や邸宅を売って引っ越した。まもなく、泥棒に大金を盗まれて、錐の先ほどの土地もない貧乏人になり、くやみ死(じに)をしたそうである。(「聊斎志異」)
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