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2007年6月26日 (火)

あるサラリーマンの証言

   石野真一郎(小林桂樹)は、ある毛織物会社の課長。妻(中北千枝子)と子供二人の円満な家庭を持っているが、一つだけ秘密がある。同じ課のOL梅谷千恵子(原知佐子)とひそかな情事を楽しんでいる。7月16日の夜、彼はいつものように新大久保のアパートに千恵子を訪ねて一時の悦楽をたのしんだ帰り、ふと近くの駅で、近所の保険外交員杉山孝三(織田政雄)とすれ違い、うっかり目礼をかわしてしまった。妻には映画を観てきたとごまかしたが、三日後、刑事の来訪をうけ、16日の夜9時30分頃、大久保で杉山と会ったかどうか質問された。彼は千恵子との情事のバレるのを恐れ、会わないと白を切った。彼の否認によって、杉山は向島の若妻殺しの容疑者として逮捕されたのである。

   杉山が殺人犯でないことは、石野と会った時刻に向島で事件が起こったことで明らかである。だが法廷で証人訊問された彼は、あくまで会ったことがないと否認、どうして嘘をつくのかと悲痛に叫ぶ杉山の言葉を心を鬼にしてきき流した。

    向島の若妻殺人事件から3年が経った。梅谷千恵子は若い恋人に、新聞をみて、ふと、洩らした。「杉山さんという方は、お気の毒ね。あれは白よ」彼女の若い恋人はその理由を聞いた。杉山が石野と行き会ったことは事実だと話した。男は、友達に話した。それが、事件を担当している弁護士の耳にはいった。弁護士は、石野を偽証罪として告訴した。石野が秘匿していた生活がにわかに明るみに出た。彼が、あれほど防衛していた破局が、急速に彼の上におそってきた。石野は、長いこと梅谷にそんな愛人がいることを知らなかった。あざむかれたのは、梅谷千恵子の嘘のためである。人間の嘘には、人間の嘘が復讐するのであろうか。(松本清張「黒い画集」)

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