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2007年3月12日 (月)

忘れじの面影

   映画「忘れじの面影」(1948年)。1900年のウィーン。決闘を明日に控えたステファン(ルイ・ジュールダン)に、名も知らぬ女性(ジョーン・フォンティーン)から一通の手紙が届く。そこには、彼がピアニストとして嘱望されていた頃に彼の隣室に住んでいたことや、初恋を胸に母と共に引越しをしたがその後ウィーンに戻り彼と再会、素晴らしい一夜を過ごした、という女の想いが綴られていた。そして、再度会った時には彼はすでに女を忘れ、想い出の夜にやどした息子は病死、本人も今や死の床にあると手紙は告げる。

    シュテファン・ツバイクの小説「未知の女からの手紙」の映画化。主演のジョーン・フォンテーンの当時の夫・ウィリアム・ドージャーの協力で創立したランバート・プロ(この一作で解散)が制作を担当。監督のマックス・オフュルス(1902-1957)はウィーンの人でメロドラマの巨匠である。オフュルスはドイツからハリウッドに渡り1947年から1949年にかけて4本の作品をつくったが、アメリカではあまり評判にはならず、失意を抱いてヨーロッパに戻り、フランスで「輪舞」「快楽」をつくって名声を快復した。しかし「忘れじの面影」は決して失敗作ではなかった。イギリスでは1951年に公開され絶賛をあびている。ハリウッドでつくられた映画でウィーンの情緒と劇的にもロマンチックなムードを醸し出した作品も珍しい。手紙を受け取る男性は原作ではRという小説家だが、映画では音楽的な情緒を生かすためにコンサート・ピアニストにかえられているのもよい。日本でも昭和29年7月に公開され多くの人がその甘美さに浸った想い出のある佳作である。なお近年の中国の女性監督で女優のシュー・シンレイによりリメイクされたという。(ケペルは未見)「見知らぬ女からの手紙」(2004)主演はシュー・シンレイ、チアン・ウェン。

             *

    高名な小説家のRが山岳地方からの旅を終えてウィーンに帰ってきたとき、駅で買った新聞の日付をみて、自分の誕生日だったことに気づいた。「私もとうとう40になった」しかし、彼に何の感慨もなかった。車を雇って自宅に帰り、たまった手紙をニ、三開封してみた。そのなかで、見なれぬ部厚な封書はあとまわしにした。お茶が選ばれてきたので、Rは椅子にふかぶかと腰をおろし、葉巻に火をつけ、思いなおしてその手紙を手にとった。それは、大急ぎで書いたように見える二十四、五枚もある、手紙というより小説のように見えた。Rはもう一度封筒をとりあげ、なにか添書でもはいってないかと思い、調べたが住所も署名もどこにも見当たらなかった。書き出しは「私を御存知ないあなたへ」とあった。Rは不可解な気持ちに襲われて読むのをちょっとやめた。これは、はたして自分宛の手紙なのだろうか、それとも夢想の人への手紙なのであろうか。彼は急に好奇心にかられて熱心に読みはじめた。

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