周敦頤「愛蓮説」
北宋の儒学者・周敦頤(1017-1073)47歳の作「愛蓮の説」は古文眞宝後集にあり、古来より名文として知られる。
水陸草木の花、愛すべき者甚だ蕃(おお)し。晋の陶淵明、独り菊を愛す。李唐自(よ)りこのかた、世人甚だ牡丹を愛す。予独り蓮の汚泥より出でて染まらず、清漣に濯(あら)はれて妖ならず、中通じ外直く、蔓あらず枝あらず、香遠くして益々清く、亭亭として浄く植(た)ち、遠観すべくして褻翫(せつがん)すべからざるを愛す。予謂へらく、菊は華の隠逸なる者なり。牡丹は華の富貴なる者なり。蓮は華の君子なる者なりと。噫、菊を之れ愛するは、陶の後、聞く有ること鮮し。蓮を之れ愛するは、予に同じき者何人ぞ。牡丹を之れ愛するは、宣(むべ)なるかな衆(おお)きこと。
「愛蓮説」は、菊を隠逸の士に、牡丹を富貴の人にたとえ、自分の理想とする君子像を蓮の花にたとえながら、社会の風潮を批判しているのである。俗人は世間的な名位や豊かな生活にあこがれ、豪華な牡丹に人気がある。唐の則天武后は牡丹を好んで宮中に植えたため、唐代では世をあげて牡丹が愛好された。蓮の花はこれらに対して、脱俗でもなく世俗でもなく、俗界にありながらひとり清らかに高潔な態度を保ちつづけ、君子にふさわしいとしたのである。
周敦頤は、字は茂叔(もしゅく)、濂渓先生と呼ばれ、道州営道(湖南)を原籍とする。慶暦の治と呼ばれる北宋の最盛期、中央では革新的な政論・学風が開花していたが、彼は禅僧と交わり清貧に安んじる地方官の生活を送っていた。南宋に入り、朱熹が道学を大成していらい、道学の開祖といわれる。彼の著述は「太極図説」と「通書」がある。「太極図説」は太極を万物の本体とする宇宙論を説く。つまり、「宇宙生成の過程は無極にして太極なる本体より発して五行を生じ、さらに一切の現象として現われ、人間は陰陽二気によって化成され、形体・精神ともに有するものであり、その道徳は聖人の定めた中正仁義の四字である」とする。
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