「万葉集」冒頭の歌
万葉集をひらくと、いちばんはじめに、泊瀬朝倉宮(はつせのあさくらのみや)に皇居のあった雄略天皇の作と伝える求婚の歌がある。
籠もよ み籠持ち 掘串もよ み掘串持つ この岡に 菜摘ます子 家告らせ 名告らさね そらみつ 大和の国は おしなべて 我こそ居れ しきなべて 我れこそ居れ 我れこそば 告らめ 家をも名をも
(通釈)かごもまあ、よいかごを持ち、ふくしもまあ、よいふくしを持って、この丘で菜を摘んでいらっしゃる娘さんよ、あなたの家がどこか聞きたい。おっしゃってください。大和の国は、この私がぜんぶ従えているのです。この私がすべて領有しているのです。こういう私にこそ、おっしゃるがよろしい、あなたの家をも、あなたの名前をも。
犬養孝は「時は春、所は国原の見渡せる丘(おそらく天ノ森の丘あたりか)、籠を持ちへらを持つ若菜つみの野の乙女に、名をたずねて求婚の情を示す、とらわれぬ人間真情の律動は、春風とともに、よみがえってきて、万葉開幕の象徴の感さえおぼえさせられる。もちろん作者は雄略天皇と伝えられるだけあって、もともと求婚の民謡風のものが、5世紀後半の英雄的君主の物語とからみあって、伝承発展をとげ、宮廷の大歌として、舞いなど伴ってのこされたものであろう。」と記している。(参考:犬養孝「万葉の旅」現代教養文庫)
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