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2007年1月17日 (水)

「赤と黒」と「パルムの僧院」との優劣論

   現在、スタンダールとバルザックを19世紀フランス文学を代表する二大小説家である、と考える読者は多いであろう。しかしながら、スタンダールという筆名で知られるマリ=アンリ・ベール(1783-1842)は、小説を書くことが彼の職業であったことは実は一度もない。スタンダールはその人生において軍人、食料品商、参事院書記官、ジャーナリスト、イタリア駐在フランス領事であり、著述はそれと並行してあるいはその間隙をぬっておこなわれた。59年間の生涯に書き残されたものの量はかなり多く、また内容も戯曲習作、美術史、音楽家評伝、旅行記、歴史、評論、小説など多岐にわたっており、小説はその一部にすぎない。作品のおもなものを執筆順にあげると次のようなものである。

  「イタリア絵画史」「ローマ、ナポリ、フィレンツェ」「ナポレオンの生涯」(未完、死後刊行)「恋愛論」「ラシーヌとシェイクスピア」「ロッシーニの生涯」「アルマンス」「ローマ漫歩」「赤と黒」「アンリ・ブリュラールの生涯」(未完、死後刊)「リュシヤン・ルーヴェン」(未完、死後刊)「ナポレオンに関する覚書」(未完、死後刊)「パルムの僧院」「カストロの尼」(ほかに二編をふくむ短編集)「ラミエル」

    このうちスタンダールの生前に出版された長編小説は、「アルマンス」(1827)、「赤と黒」(1830)、「パルムの僧院」(1839)の三作だけである。「アルマンス」は発表当時はほとんど無視され、「赤と黒」と「パルムの僧院」は多少の反響はよんだものの、成功作というにはほど遠かった。スタンダールは生前職業作家となることはついにできなかったし、文学的栄光もなかった。ところが、スタンダールの死後10年ほど経ったころから、一部の読者のあいだに「赤と黒」と「パルムの僧院」が読まれはじめ、やがてテーヌやブルジェのような当時著名な批評家、小説家が、スタンダールを熱心に賞賛するようになる。

    スターンダルの愛好家、研究家のことをスタンダリアンというそうだが、スタンダリアンの間でしばしば話題にのぼることのひとつに「赤と黒」と「パルムの僧院」のどちらがスタンダールの代表作であろうか、という問題である。ともに傑作であるこのふたつの小説が、なにからなにまで対照的といってもよいほど異なるので、いささか無意味でもある優劣論に興味がわくのであろう。代表的なものとして、アルベール・チボーデの意見を紹介する。

   スタンダールの作品のなかでまずなにかひとつ読んでみたいという者は、「赤と黒」から始めるのがよい。だが彼の著作をひととおり親しみ、その世界に魅力を感じている者にたいしては、「パルムの僧院」こそ最高傑作として薦められよう。

   また、小説家であるとともにすぐれた文学鑑賞家であったアンドレ・ジイドが、彼の選んだフランス小説ベストテンの第一位に「パルムの僧院」をあげていることを考えると、チボーデの所説はかなりの一般性が認められるような気がする。(参考:「世界文学全集8パルムの僧院」集英社、小林正、石川宏)

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