寒山子詩一編
千雲万水間
中唐 寒山
千雲万水の間
中に一閑士あり
白日 青山に遊ぶ
夜 帰りて巌下に睡る
倏爾として春秋を過り
寂然として塵累無し
快よき哉 何の依る所ぞ
静かなること秋江の水の若し
(千層にも重なった雲、万条にも流れる川のあるこの寒山に、のんびりと過ごす一人の隠者がいる。昼は青山に遊び、夜、帰ってからは岩の下で眠る。たちまち歳月が過ぎ去り、ひっそりと静かで、俗世とは縁が切れている。なんと快いことだろう、頼るものの無いことは。心はまるで、秋の大川のように静かである。)
寒山は生没年不詳。詩の内容その他から、中唐ごろの人と見なされる。浙江省の天台山にある国清寺(こくせいじ)に出入りし、数々の奇行で知られた。その実在性は疑わしく、単なる伝説上の人物ともいわれるが、俗世に背を向け自然と一体になって暮らしたその人物像や、禅の影響を感じさせるその詩風は、後世に大きな影響を与えた。『寒山子詩集』二巻がある。これは、寒山が村の家々の壁や山中の木、石などに書きつけた詩三百余編を集めて作ったものと伝えられる。(参考:石川忠久「漢詩への誘い 杭州の巻」2004.10)
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