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2006年11月 3日 (金)

胡沙笛を吹く武士

   司馬遼太郎の「新選組血風録」は15編の短編集である。それぞれの物語には、土方歳三、沖田総司はじめ有名隊士が登場するが、各回の主役は無名隊士が多い。手元にある数冊の新選組の隊士総覧とか名簿類を探しても実在しない隊士も多い。もちろん読者も小説であるから虚構は承知のうえであろう。しかし後年の司馬作品の特徴はかなり歴史的事実に重きをおくようになっているので、読むにはかなり注意を要する作品であろう。「新選組血風録」(昭和39年刊行)がでるまでは司馬は歴史小説といよりも忍者小説の作家と思われていた時代で、フィクションを存分に取り入れ、その分、物語的面白みがあった頃の作品といえる。東映では、この一回読みきり小説がシナリオ化しやすいと判断したのであろう、翌年にはすぐ栗塚旭主演でテレビドラマ全26回を製作した。原作は15編なので、原作にないオリジナルなストーリーも多い。この第4話「胡沙笛を吹く武士」は原作とドラマとの比較ができるが、細かい箇所では原作と異なるところもみられる。この頃の司馬と東映脚本部では、作家より脚本家(結束信二)の力が大きかったようで原作はかなり思い切って変えることは可能だったようである。例えば、原作では鹿内を卑怯者と見抜くのは近藤であって土方は鹿内をかばうように見られるが、テレビでは土方が主役なので鹿内の心中の変化に気づくのは土方である。近藤勇を演じる舟橋元はもともと新東宝の青春スターであったが、東映では前年テレビ「忍びの者」(品川隆二主演)の明智光秀役でお茶の間に人気の出た栗塚旭をスターに育てようと企画し、原作を変えて土方中心のシナリオにしている。

  「胡沙笛を吹く武士」の主役の新選組隊士は鹿内薫という奥州南部出身の純朴な男である。無口で一人で胡沙笛というアイヌが吹いていたという珍しい笛を吹くのが唯一のなぐさみである。ある日、小つる(高森和子)という祇園の髪結の女とその笛が縁で親しい仲にまで発展した。組頭の原田作之助(徳大寺伸)の世話で二人は所帯を持つようになった。しかし愛する妻と子ができてから鹿内はこれまでとは別人のように怯懦になった。京都から出ることを小つるに相談したが、京女は田舎暮らしがいやだという。あるとき探索を命ぜられた鹿内は弱気になり「士道不覚悟」の罰をうけることになる。近藤の命で原田はやむなく鹿内を斬殺する。

   鹿内薫の実在は確認できなかったが、史書には鹿内主税という名がみえる。島田魁の記録では、局長附の一員となって、横倉甚五郎は「慶応3年12月大坂にて脱走」と記す。原田左之助は新選組の幹部で妻がいる実在の隊士。原田は坂本龍馬殺害事件で「こなくそっ」という掛け声を放ったことで知られる(原田は愛媛県出身。今は原田殺害説は否定されている)上野戦争で29歳で死ぬ。司馬は恐らく所帯もちの原田と絡めて対比させることで、鹿内の悲劇性を強めよう考えたのであろう。

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