戦前図書館界の功労者たち
昭和26年10月10日、日本図書館協会創立60周年記念式典において30名の功労者が表彰されている。ここにその氏名と略歴を掲げる。
秋岡梧郎(1895-1982 東京都江東区立深川図書館長) 熊本県に生まれる。1922年講習所第1期卒業。1919年熊本県郡教育会明治文庫司書を振出しに終始図書館事務に従事する。1922年日比谷図書館に就職後、麻布、両国、京橋の各主任を経て1931年京橋図書館長に昇任。1948年現職に就く。
天野敬太郎(1901-1992 関西大学調査部長) 京大司書として法経図書室に長年勤務。傍ら目録法、書誌学に研鑽。戦後、関西大学図書館長に就任し、同大学図書館学校を創設する。
伊東善五郎(1891-? 青森市議会長) 青森中学を卒業後、家業を継ぎ、傍ら市会議員に選出されること数回。図書館に深い関心をもち、古くから本会員として、また青森県図書館運動のために献身。
衛藤利夫(1883-1953 本協会名誉会員 本協会前理事長)熊本県に生まれる。1912年東京帝国大学文学部選科修了。同大学図書館司書を経て1922年に満鉄奉天図書館長となり、大連図書館とともに満鉄図書館の黄金時代を築いた。1942年に同館退職後帰国。敗戦直後の大日本図書館協会理事長兼事務局長、1947年には新生の協会理事長に就任し、戦後の混乱期、3年にわたって協会の社団化と再建に尽くした。
大野史朗(1891-? 東京農業大学図書館) 1918年農大卒業後、同大助手をつとめ、1920年農大図書館に転じ、1944年農大参事同図書館長代理となる。
長田富作 (1880-? 元大阪府立図書館長) 1929年大阪府立図書館司書部長として図書館界に入り、1933年今井貫一の後を継いで二代館長となる。その間、特許公報室を整備し、また印刷部を設けるなど鋭意館の充実に努力する。
柿沼 介(1885-? 国立国会図書館図書館学資料室長) 1911年東大哲学科卒。1913年東京日比谷図書館に就職。1919年満鉄に入社し図書館勤務。1924-1926年図書館管理法研究のため米英独に留学。帰国後、満鉄大連図書館長に就任。1940年辞職。戦後は国立国会図書館に勤務。
加藤宗厚(1895-1981 国立国会図書館支部上野図書館長)愛知県に生まれる。1925年文部省図書館教習所修了後、帝国図書館に奉職。分類・目録など整理技術の分野で活躍し、教鞭をとる一方、「日本件名標目表」を刊行。富山県立図書館長、東京都立深川図書館長を経て、1947年文部省事務嘱託となり、図書館法制定の準備に力を注いだ。
河合博(1901-? 前東京大学司書官) 1928年東大法学部卒。1934年東大助教授に任官、翌年東大司書官となる。1937-1938年文部省在外研究員として大学図書館経営法研究のためアメリカに留学。1950年司書官を退きスタンダード石油会社顧問弁護士となる。
川崎操(1904-? 一橋大学附属図書館事務長) 日大高師部卒。1923年教習所卒業後、東京商科大学図書館に就職し、以来25年にわたり同館のために貢献、傍ら大学図書館部会幹事として活動。
久保七郎(1884-? 東京都立青梅図書館長) 七高中退。1912年京橋図書館長となり、大正年間公開書架制を採用した。1926年衆議院図書館長となる。1946年青梅図書館長となる。その間、図書館生活37年になる。
金光鑑太郎(1909-1991 金光図書館長) 1928年金光教教義講習所卒業。1941年金光教本部教会副教会長に就任。また1943年金光図書館を創設し、その館長となって今日に至る。
佐々木慶成(1885-? 富山県福野町立授眼蔵図書館長) 東大文学部卒。私有の仏典及び一般書を地域社会のために公開することを決め、1919年私財5000円を投じ、館舎52坪を新築するとともに、職員を上野の講習所に入所せしめて、私立授眼蔵図書館を経営する。
佐藤昌二(1908-? 佐藤商事株式会社社長) 1939年母校山形男子国民学校に図書館設置を奨励し、私財を以て図書及び設備を寄附し以後毎年新刊を購入送本し、また友人間宮不二雄をして経営の指導に当たらしめ、かつて「図書館経営の実際」を編集させる。戦後山形第一小学校となるや、援助育成を継続し、或は「佐藤文庫賞」を設けて読書奨励を行う。
椎名六郎(1896-1976 香川県立図書館長) 1921年大谷大学卒業。明善高女の教諭をし文化運動に力む。1941年香川県社会教育課に勤務し、翌年県立図書館長事務取扱を兼務。1948年館長に就任。
志智嘉九郎(1909-1995 神戸市立図書館長) 1934年東大文学部支那文学科卒。1935年洲本のち尼崎中学校教諭。1939年興亜院華北連絡部文化局に就任。1948年現職につく。
鈴木賢祐(1897-? 山口県立山口図書館長) 1919年大阪府立、1924年和歌山高商図を経て1937年上海近代科学図書館総務に、その後九州大学図書館、日本図書館協会、満州国中央図籌備処を歴任。戦後、東大司書官に任ぜられ、1950年現職に転ず。
仙田正雄(1901-1977 天理大学教授) 関西大学専門部国文学科卒。1914年奈良図書館に就職。1919年大阪府立図書館、1926年天理図書館司書に就任。1939-1941年コングレス図書館の東洋部員として在米。帰朝後、野田與風会図書館、八幡製鉄所図書館主任を歴任し、戦後は天理図書館司書研究員、1949年神戸大学図書館事務長に任じられる。本年現職に転じ、図書館学を担当。
武田虎之助(1897-1974 東京学芸大学講師) 宮城県に生まれる。1920年東北帝国大学図書館勤務。台北帝国大学、東京帝国大学等を経て、1948年文部省社会教育調査員に任命され、図書館法制定の準備に尽力した。日本図書館協会では、1950年図書館雑誌編集委員長として活躍。
竹林熊彦(1888-1960 京都市教育委員会指導委員) 京大文科卒。1913-1915年ハワイ・ホノルルにて記者。1916年京大図書館に就職。1918-1924年同志社大学予科教授。1924年九州大学司書官。1939年京大司書官と歴任し、1942年退官。のち関西学院大学図書館等に関係する。
中島正文(1898-? 津沢郵便局長) 1932年自己所有の2000冊をもとに私立中島図書館を創設し、一般に公開する。1940年津沢町に無償寄附を行い、無給館長として奉仕し、その充実発展を図る。また1932年礪波図書館協会を起こし或は県立図書館副会長として地方館界に貢献する。
中田邦造(1897-1956 前日比谷図書館長)滋賀県に生まれる。京都帝国大学卒業。1931年石川県立図書館長。1940年まで在任。その間、県内図書運動の推進に努めた。1940年上京。東京帝国大学附属図書館司書官となり、同時に日本図書館協会理事として「図書館雑誌」の編集にたずさわり、日本図書館協会で全国的読書推進運動を展開した。1944年、東京都立日比谷図書館長に就任。戦時下30万冊の図書の疎開、戦後の図書館の復興に尽力した。
中野栄三郎(1887-? 野田醤油株式会社社長) 1929年與風会設立とともに理事をつとめ1946年理事長に就任。その間よく図書館の経営に当たる。
中山正善(1905-1967 天理教真柱) 奈良県に生まれる。1929年東大宗教史学科卒。1915年天理教管長を襲職し、1946年改正に伴い、真柱となる。
名塩良造(1883-? 北海道北見市菓子問屋業) 京都市に生まれる。26歳のとき渡道して雑貨の行商を営む。北見に雑貨店を開業のち菓子業に転じ今日の大をなす。1942年所有の建物を図書館にあてることを条件として、市に寄附して市立図書館の基礎をつくり、1946年開館以来絶えず図書を寄贈し、同館の拡充発展に力を尽くす。
西森理作(1897-? 富山市文房具商) 富山県神代村に生まれる。幼少の頃富山市に出て文房具商に奉公、至誠一貫営々として働き、ついに店主の経営を引き継ぎ、市内有数の商人として成功。1942年私財を投じて富山県氷見郡神代村立図書館を設け、以来毎年新刊を購入寄附し、戦後は館の更正拡充を図るために尽力。
廿日出逸雄(1901-? 千葉県立図書館長) 広島県に生まれる。1925年龍谷大学卒業後、同大学留学生としてドイツ・ライプティヒ大学に教育学を専攻し、傍ら同大学図書館学校に学ぶ。帰朝後は帝国図書館嘱託を経て、1935年から現職に就く。
村上清造(1901-? 富山大学附属図書館薬学部分館長) 1922年富山薬専卒業後沖縄にて中等教員となる。1927年母校図書館に就職。1940年富山県立図書館が設立されるや同司書に迎えられ、加藤館長を輔けて創設に当たる。1944年退職して上京、技術院の科学論文調査を掌る。戦後、薬専図に戻り、図書館経営とともに教官として学生に利用法を講ず。1949年現職兼文部教官に就任。
村田幸一郎(近江セールズ株式会社社長) 財団法人近江兄弟社理事長として社会教育に深い関心をもち、江近図書館を経営するとともに滋賀県図書館運動を推進する。
渡辺正亥(1905-? 新潟県立図書館長) 1926年講習所卒。大正1923年新潟医大図書館に就職し、1944年退官まで終始同館の整備拡充に精進。
[付記] 30人の功労者の経歴をみるとほとんど戦前期において図書館に何らかの貢献がある者たちだが、なぜか最年少の志智嘉九郎の受賞だけは気になる。(もちろん館界で著名人であることは知っているが)当時においては昭和23年に神戸市立図書館長になってから僅か3年が経過しただけである。大正年間に開架制を導入した久保七郎とキャリアが違いすぎる。また毛利宮彦が選ばれなかったのはなぜだろうか。選考に疑問が残る。
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