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2006年7月31日 (月)

早稲田大学図書館・大阪毎日新聞社と毛利宮彦

    最近ブログ検索などで毛利宮彦の名前をしばしば目にするようになった。「早稲田大学図書館を追われた毛利宮彦」「謎の毛利宮彦」とか興味をそそられる記事がでている。

    毛利宮彦(1886~1956)の名前は人名事典などにも掲載されず、図書館史研究者だけが知る名前であろう。概略を紹介すると、大正4年にアメリカに留学して図書館学を導入、普及に貢献した。大正5年の秋、全国図書館大会において帰朝講演している。図書館での功績としては、戦前期のレファレンス・ワークの導入に関して「日本で初めて定義を紹介したのは毛利宮彦だといわれている」(『情報サービス論』阪田蓉子、24p)とある。

    昭和3年から6年まで図書館事業研究会を主宰し、『図書館学講座』全12巻を刊行している。当時、これだけまとまった図書館学のシリーズ物を協会事業でなく、個人的事業として成し遂げたことはさぞかし苦労があったと思う。先ごろブログなどで閲覧できる坪内逍遥の日記の日付から判断して、図書刊行の資金繰りに困窮して、早稲田大学に援助を求めたものと推測している。

   しかしながら、毛利宮彦はこれだけ図書館に情熱がありながら、いわゆる図書館界に籍をおく図書館人ではなかった。大正8年から15年まで大阪毎日新聞社に勤務していたジャーナリストであった。大阪毎日新聞社(堂島)は当時発行部数を伸ばし、拡張期であった。毛利は図書資料を中心に調査部を創設した。また『毎日年鑑』(大正9年)の刊行、『サンデー毎日』にも自ら執筆している署名入り記事がある。

    「毛利宮彦の謎」といわれるのは、米国留学の後、早稲田大学の図書館建築などでその米国留学経験の成果を発揮するものの、突然、大正6年11月5日、何故に大学を退職したのか、その理由が不可解・不自然であったことを指すのであろう。坪内逍遥の日記に見られる「湯浅の件」とある湯浅という人物を湯浅吉郎(1858~1948)のことと推理している。その理由としては、湯浅は図書館学にも造詣が深く、明治35年アメリカで図書館学を学んだ経験のある神学者・詩人で京都府立図書館長だった。わざわざ日記に「湯浅来る」とあるからには遠方からの賓客ではないだろうか。京都の湯浅吉郎なら館界の大物であり、毛利宮彦が教えを請うために大正5年秋の全国図書館大会での懇親会で面談したことが考えられる。

   では、事件に関する三つの疑問点を整理してみよう。

1.毛利が全国大会で講演したのが大正5年秋。この同じ年春に湯浅は京都府立図書館長を退職している。

2.大正6年1月早々に毛利宮彦の母は坪内逍遥に相談している。ということは事件は大正5年の秋から年末にかけて発生した可能性が高い。

3.毛利が東京を去り大阪へ行くまで、この事件が収束するのにほぼ1年かかっている。問題解決には長期を要したのは、毛利にとってあまり納得のいかない大学側の決定だったからかも知れない。

    米国留学経験を共有する二人である毛利宮彦と湯浅吉郎との間に何があったのか。新旧の図書館思想あるいは図書館建築の意見の違いからトラブルがあったのか。

    その頃、早稲田大学では市島謙吉館長、毛利宮彦司書を中心に図書館の新館建設を計画していた。そこで経験豊富でちょうどフリーとなった湯浅を図書館顧問に招聘し、熱心な図書館設計をはじめていた頃が大正5年の秋である。湯浅には大正3年に同志社大学図書館建築委員会委員となり、翌年大正4年10月新図書館が完成し、その経験があった。

   ここで思い出すのは、中村初雄の図書館雑誌の追悼文だが、毛利の人柄について述べた下りで「容赦のない批判精神、それは先生のサムライ意識、徹底的合理主義と共に、先生の生涯を特長ずけた3要素とも言われよう。しかしこの三つの組み合わせは或る場合には先生を誤解させる原因ともなり、先生を孤独の人に追いやってしまったともみられぬこともない。」という一文に、それとなく原因を想起させるものがある。

  とにもかくにもアメリカ帰りの新進気鋭の図書館学者の毛利宮彦が館界を去ることは、わが国の図書館にとっては痛恨事であった。この事件を些事とは思わない。今後、毎日新聞社、早稲田大学図書館、京都府立図書館、同志社大学などで保管している資料などからこの事件の真相が明らかになるかもしれない。

追記:高梨章「毛利宮彦の謎」(日本図書館文化史研究会ニューズレター102)の調査によると、毛利宮彦は芸妓上がりの女優・金太郎との恋愛事件により新聞に掲載されるほどの騒動となり退職するに至ったことが明らかとなった。(やまと新聞大正6年4月1日夕刊)

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