無料ブログはココログ

« 朝日新聞の懸賞小説 | トップページ | 時任謙作の年齢 »

2006年7月23日 (日)

大地は微笑む(吉田百助)

   文科大学部長村田博士の息子、村田慶一は、保守的な父に似ぬ新しい思想の大学生であった。父と子はつねに対立、争いが絶えなかった。慶一の親友大津進は、歌劇の女優満智子の愛に酔っているが、彼女にはパトロンがいる。文科大学の出資者岡部男爵の息子保紀である。大学記念祭の余興が因となり、慶一は学校をおわれ、父博士は責任をとって学部長の職を辞さなければならなかった。

    父の書斎から大金を盗んで家出、逃走した慶一と進は、捕らえられて法廷に立つ。社会的地位と名声のため、父博士は冷酷にも慶一に不利な証言を行い、そのため慶一と進は、罪なき罪まで背負って獄舎の人となるのである。

                 *

   舞台は朝鮮へとぶ。数ヶ月の牢獄生活に心身ともに荒んだ慶一と進は、いまは北朝鮮の木材場で働いている。進は肺を冒され、たまたま京城の女学校を卒業して帰国してきた土豪の娘秋蓮の優しい看病にからくも生きる力を振るいおこしていた。秋蓮は慶一の深い友情に惹かれ、いつしか愛を寄せるようになっていく。

   やがて進は、愛人満智子の冷たさを怨みつつ異郷の地に死んでいく。その頃、馬賊と気脈を通ずる偽神の道士、王烈釣が村を襲ってきた。慶一は王らに対抗、馬賊の一味と激しく闘い、ついに秋蓮と共に馬を駆って明けていく大陸の果てへと脱走していくのである。

         *

    いまは慶一の妻となって、名も秋子と改めた秋蓮と二人、東京で愛の巣をいとなむが、世間は前科者として冷たく扱う。父博士はその学説も今は旧いとされ、過去の人となり、自分を裏切った息子慶一への怒りはいやまさるばかりだった。そこで初めて岡本博士から、母親に関する秘密をきいた。

   暴風雨の夜、慶一と父博士は、ゆくりなくも出会う。対立、憤怒、憎悪、二人の醜い争いがつづけられている時、秋子はわが子を寝かしつけるためにレコードの子守唄をかけた。そのやさしいメロディーに、相争う父と子二人の心は温かくほぐれていく。かくて大地は微笑むであろう。

          *

   朝日新聞の懸賞小説が話題となり、映画化が進み、松竹と日活の二社競作となった。松竹が井上正夫という新派俳優と栗島すみ子をたてたのに対して、日活は新人の中野英治と岡田嘉子という新しいスターで対抗した。

« 朝日新聞の懸賞小説 | トップページ | 時任謙作の年齢 »

「日本文学」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 朝日新聞の懸賞小説 | トップページ | 時任謙作の年齢 »

最近のトラックバック

2017年3月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31