宝井其角
榎本氏。榎本は母方の姓で、のち宝井氏。別号晋子(しんし)・螺舎(らしゃ)など。寛文元年(1661)7月17日生まれる。父は江戸日本橋堀江町に居住した竹下東順(とうじゅん)という。東順は膳所藩主の侍医で、歌や俳諧をよくした。この父に従って、17・18歳ころ(延宝初年)芭蕉に入門したらしい。芭蕉に愛され、芭蕉を敬愛していながら、その作風は都会的趣味感覚によって貫かれている。嵐雪と並んで芭蕉門下の桜桃と称された。天和3年、蕉風展開に一時期を画した『虚栗』を編み、俳壇にその地位を確立。宝永4年、47歳で没。句集には自選の『五元集』(延享4年刊)がある。
日の春をさすがに鶴の歩み哉
鐘ひとつ売れぬ日はなし江戸の春
なつかしき枝のさけ目や梅の花
鶯の身をさかさまに初音哉
傘(からかさ)に塒(ねぐら)かさうよぬれ燕
白魚や海苔は下辺の買合せ
越後屋に絹さく音や更衣
夕立にひとり外みる女かな
稲づまやきのふは東けふは西
声かれて猿の歯白し峯の月
名月や畳の上に松の影
あれきけと時雨来る夜の鐘の声
此の木戸や鎖のさされて冬の月
我が雪と思へば軽し笠の上
初霜になんとおよるぞ舟の中
からびたる三井の二王や冬木立
鳩部屋の夕日しづけし年の暮
耳づくのひとり笑ひや秋の暮
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